今月18日から名古屋市で開幕する生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)。これに合わせて16日、土浦市にある県霞ケ浦環境科学センターで、国立環境研究所の五箇公一さんによる生物多様性をテーマにした講演が行われました。
地球温暖化とともに最近になって頻繁に出てきた「生物多様性」。これは遺伝子の多様性(同じ種類でもさまざまな遺伝子を持った多種の固体)、種の多様性(チョウ、ハチ、鳥など生物にはいろいろな種類がいる)、群集の多様性(森には昆虫、川には魚など環境が変われば生物も変わる)、生態系の多様性(山、川、海などの自然環境も多様) といった、さまざまな階層の多様性を包括する言葉です。
例えば同じ遺伝を持つチョウのグループと、遺伝的に多彩なチョウのグループが、それぞれ天敵や病気などによる環境ストレスを受けた際には、遺伝的に多彩なチョウの集団の方が個体差などにより生存率は高く、逆に同じ遺伝を持つグループは根絶される危険性があります。また、種の多様性では、動植物や昆虫の種類が多いと食物連鎖の仕組みは複雑になり、一つの種類が絶滅しても、別の食物連鎖のルートが維持され、補食のトップに立つ大型動物が生き延びることが出来ます。多様な遺伝、種類、群生、生態系が備われば、安定した物質循環、エネルギー循環が可能となります。
講演の中で興味をひきつけたのがクワガタムシの話。五箇さんによると、「子どもから大人までクワガタムシやカブトムシなどの甲殻昆虫が大好きな国は日本だけ」と前置きし、1999年に植物防疫法の一部改正で昆虫の輸入が解禁されると、大型のクワガタをペットとして輸入。この結果、「輸出するアジアの山村ではクワガタを捕った収入で家を建て、原産地でクワガタが激減したという話まであります」と述べました。
国内のクワガタは150~500万年をかけて固有に進化してきたものの、輸入によって自然界で起こりえない外来種との交雑が発生。五箇さんは「長い時間をかけて多種、多様に進化してきた日本固有のクワガタが、将来、失われる可能性があります」と、クワガタを通して外来生物の問題を指摘。クワガタのほかにも、繁殖力が強い南米に住むアルゼンチンアリが広島など各地で繁殖が確認され、在来種のアリを駆逐する勢いで増加し、さらに同じ南米原産で猛毒を持つヒアリについても、「ヒアリの毒で人間が死亡するケースもあります。すでに東南アジアで観測されており国内上陸は秒読み段階に入っています」と、生物多様性を破壊する危険な外来種についても紹介しました。
テキスト表紙は五箇さん作成のクワガタがイラストで入っていました
このほか、土浦の上高津地区で里山づくりをしている「NPO法人宍塚の自然と歴史の会」理事長、及川ひろみさんの講演もあり、里山について貴重な話しを聞くことができました。
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